1、建設キャリアアップシステム(CCUS)の仕組み
このシステムを利用するには、まず一人ひとりの技能者がまちがいなく本人であることを確認したうえでシステムに登録し、ID(個人を識別する番号)が付与されたICカードを交付されることから始まります。
その上で、いつ、どの現場に、どの職種で、どの立場(職長など)で働いたのか、日々の就業実績が、電子的に記録・蓄積していく仕組みです。仕事の経験を重ねていく中で、どんな現場を経験したのかという記録が毎日残されるほか、どのような資格 を取得したのか、どのような講習を受けたのかといった技能や研鑽の記録も蓄積されていきます。
こうして情報が蓄積されていくことで、それぞれの技能者の評価が適切に行われ、処遇の改善に結びつけること、さらには人材育成に努め優秀な技能者をかかえる事業者の施工能力を誰が見てもわかるようにすること(見える化)を目指しています。
2、CCUSを利用するには
①まず事前に様々な情報を登録しておくことが必要
登録する内容 |
手続き名 |
登録する情報 |
---|---|---|
技能者個人 | 技能者登録 | 個人情報・資格・研修・保険加入状況など |
事業所単位 | 事業者登録 | 屋号・住所・建設業許可など |
現場 | 現場情報登録 | 現場名・住所・工事内容など |
各事業所では、まず「事業者登録」を行い、続いて「技能者登録」をそれぞれの技能者について行います。「技能者登録」をするときに、在籍している事業所名と事業所IDを登録するので、「事業者登録」を先行して行います。ただし事業所登録が遅延しているなど、事業所IDが不明な場合などには、後日に追加登録することも可能です。
現場情報登録は、着工前に行います(2019年春にシステムが本格始動する直前に登録ができるようになります)。
②「事業者登録」「技能者登録」には3つの方法がある
登録方法 |
手続き場所 |
特徴 |
---|---|---|
インターネット申請 | 建設キャリアアップシステムのホームページからポータルへ | 途中で中断も可能 技能者登録では割引あり |
郵送申請 | 申請書を入手し、同封の封筒で郵送 | 記入方法や添付書類の不備がなく、多忙な方にオススメ |
窓口申請 | 申請書を入手し、「受付窓口」という窓口へ持参 | 添付書類の漏れがチェックされる |
申請書を入手し、「認定登録機関」という窓口へ持参 | 窓口で書類の審査もされる |
③費用
種別 |
費用の内訳 |
内容 |
---|---|---|
技能者情報 | 登録料 更新料(10年毎) | 窓口申請3500円 インターネット申請2500円(2019年3月末までは2000円) |
事業者情報 | 登録料 更新料(5年毎) | 資本金により3000円~120万円 ただし一人親方は無料 |
管理者ID利用料 (毎年) | 同時に操作可能なIDごとに2400円 ただし2019年3月末までは無料、20年3月までは1ID無料 | |
現場利用料 | 入場履歴1回につき3円 |
④現場入場履歴の蓄積
現場情報登録がされた現場を受注したら、事業所は元請事業者に現場入場予定者を従業員名簿で登録しておきます。その後、現場入場する際にカードリーダーへ職人一人ひとりがICカードをかざすことで、「その日にその現場に従事した」ことが記録されます。労働者名簿などに基づいて、「作業内容」「職長として入場」など作業や役割も登録されます。
蓄積された現場入場履歴は、事業所は出面として流用することが可能で、建退共証紙を元請事業者に請求する仕組みに流用する計画があります。ただし入退場時刻は記録されませんので、労働時間管理はできません。
⑤資格や講習受講歴などの追加登録
CCUSに当初登録した資格や講習会受講歴に、追加する資格などを取得した場合は、どんどん追加登録ができます。事業所は積極的に職人さんに資格取得をさせてあげましょう。職人さんのキャリアアップが、事業所の評価アップにつながります。3、建設キャリアアップシステムで何が変わるのか
①“自称”の情報が区別される
日本の建設業の歴史で、氏名と職種を公的に証明する仕組みは初めてです。「自分が誰なのか」「なんという職種で、必要な資格は何を持っているのか」など、自分自身以外が証明してくれる仕組みは、歴史上初めてです。 CCUSには、本人確認を含めて公的な証明書や書類原本で事実が確認された情報が登録されます。システムで裏付けがある情報と、裏付けのない情報が区別されます。裏付けのない情報は、「自称」の情報として軽視されます。
裏付けがある |
情報の種類 |
裏付けがない |
---|---|---|
身分証明書で確認済 |
個人情報 |
カードの有効期限が短縮される |
システムに登録できる |
資格 |
真正性がないものとして表示 |
日々の就労履歴で明確 |
現場経験 |
自称の経験として表示 |
有資格者の在籍数で表示 |
会社の施工力 |
自称の施工力 |
システム上で明確 |
社会保険 |
システム上で未加入扱い |
Point
・日本の建設産業で歴史上はじめて「職種」が公的に証明される ・個人情報、職種、資格、経験に公的な裏付けがされる ➔ 裏付けがない情報は“自称” ・“就業経験”や「俺ならできる」より、CCUSの就業履歴が重視される ・キャリアパスの明確化 ➔「何ができるようになれば、ステップアップできるか」②職人さんのステップアップの道筋が見えてくる
建設職人の世界は、「何がどうなったら一人前なのか」が明確ではありません。自分では経験豊かだと思っていても、親方が「まだまだ半人前」と言えば、半人前。こうしたあいまいさが無くなっていきます。
どんな資格があるのか、どれぐらい現場経験があるのか、職長として何現場をまとめてきたのか、どういった表彰を受けているのか、様々な裏付けがある情報が蓄積されます。
高い技能や豊かな経験がある先輩に追いつくには、どういった資格を取って、どれぐらい経験を踏めばいいのか、そういったキャリアアップの道筋(キャリアパスといいます)が目に見えるようになります。
将来的には各専門工事業団体が策定する「能力評価基準」とCCUSの連動が始まり、評価に応じて4段階の色分けされたキャリアアップカードが発行されることが計画されています。
③野丁場で業者選定が変わる
野丁場で協力会社を選定する際、それまでの取引実績や、元請職員の経験や記憶だけに左右されず、「有資格者の在籍状況」「現場経験の延べ日数」「社会保険の加入状況」など、様々な事業所の情報が明確になります。
技能者個人の情報は、所属する事業所の情報に“紐づけ”されるため、技能者個人の資格取得や現場経験の蓄積が、そのまま事業所の評価を上げることにつながります。所属する個人を特定する情報は、現場施工中以外には他の業者から閲覧できないように制限することが可能で、引き抜き合戦を防止する措置も取られています。
システム利用事業者が閲覧できる他社の情報
(業者選定の際に利用できる事業者の情報)
① 名称や所在地・電話番号
② 建設業許可の種類・番号・許可期限
③ 社会保険の加入状況
④ 建退共の共済契約の状況ある
⑤ 所属技能者の情報(本人同意が場合)
・氏名 ・職種 ・社会保険の加入状況
・経歴(経験・就業履歴など) ・資格
現場施工中に上位会社が閲覧できる下請の情報
① 名称や所在地・電話番号
② 建設業許可の種類・番号・許可期限
③ 社会保険の加入状況、個人単位の加入率
④ 建退共の共済契約の状況、加入者数
⑤ 有資格者の数の集計
⑥ 所属技能者の情報(作業員名簿に相当)
・氏名 ・職種 ・社会保険の加入状況
・経歴(経験・就業履歴など) ・資格
Point
・CCUSに登録している事業者は、他の事業者の公開情報を閲覧出来る
➔ 技術力や有資格者の有無などで取引先が選ばれるようになる
・価格だけでなく、施工経験や有資格者の有無が取引先選別のモノサシに
・当然ながらブローカーは「施工力なし」が明らかになり、存在意義もなくなる
④町場で営業が変わる
町場(いわゆる住宅市場・リフォーム市場)では、大手企業の宣伝力・ブランド力が大きな主導権を握っていて、いわゆる町場業者が実際の施工を担っているケースが多いにもかかわらず、その施工力は評価されていません。町場業者の「施工力」「現場経験」の評価が曖昧だったからです。エンドユーザーのイメージ | |
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大手住宅メーカー・大手リフォーム会社 | 地元工務店・町場の専門業者 |
・ブランドの安心感がある ・品質や技術が安定している ・割高かもしれないが安心できる | ・価格は安い ・品質や技術にばらつきがありそう ・近所の職人という親近感がある |
Point
・「町場業者で大丈夫?」という不安に、自社の施工経験や技術力を売り込める ・CCUSの裏付けある情報が、施工力アピールの武器になる⑤未来に生き残れる会社になろう
建設業の足を踏み入れた時から、毎日毎日の経験がきちんと蓄積される会社。将来、ほかの会社に移っても、それまでの経験が無駄にならないように記録できる会社。そうした「職人の未来に責任を持っている会社」にこそ、人が集まります。「適切な保険加入」に加えて、CCUSが、未来に生き残れる会社の条件になります。
また事業所の施工力の評価が、所属する技能者の経験や技能に左右されることになります。職人さんを雇用せずに外注としているケースでは、事業所の施工力がアピールできません。「キチンと雇って、責任をもって育てているマジメな事業所が選ばれる」というのがこのシステムのキモです。
Point
・CCUS参加が業界標準になれば、登録していない業者は職場として選ばれなくなる
・雇用していれば、自社の施工力として評価される ➔ 曖昧な支配下労働者の区別
➔ 専属外注は“取引先”にすぎない(社保未加入対策を誤魔化してきた業者の選別)
・“専属外注”は雇用されていないので、事業所の施工力にカウントされなくなる
4、みんなでCCUSに登録しよう
①建設業のスタンダードに育てよう
今までの建設業の慣行を大きく変える可能性を秘めているのがこのシステムです。野丁場も町場も、若手もベテランも、もちろん性別を問わずにICカードを作っていきましょう。
登録する前の現場経験は、すべて“自称”の経験、“思い出”にしかなりません。「1日でも多くの公式な就労履歴を増やすぞ」の決意こそがスタートです。
Point
・建設業で働いてきたことの証明には、このCCUSの就業履歴が標準になる
➔ 慢性疾患の労災申請をする際にも、大きな武器になる
・誰もがカードを持つことで、職人にメリットある仕組みに育てて行こう
②原本を集めましょう
CCUS登録には、ありとあらゆる書面や証明書の「原本」を手元に集めることがスタートです。
本人確認・・・運転免許証がベスト
社会保険・・・健康保険証 被保険者証 ねんきん定期便など
資格関係・・・資格証、修了証
表彰関係・・・表彰状、認定証